成年後見人って実際どうなの?
皆様こんにちは、岸和田事務所の司法書士山﨑聡です。
今回は、成年後見制度について少しお話させていただきたいと思います。
成年後見制度とは、「認知症や知的障害、精神障害などの精神上の障害により判断能力を欠く成年者(18歳以上の者)の身上保護や財産上の保護を行う制度のことを言い、1999年の民法改正によって新しく制定され、2000年4月1日から施行された制度です。
民法に基づく法定後見と任意後見契約に関する法律に基づく任意後見がありますが、この記事では、民法に基づく法定後見(成年後見人、保佐人、補助人の3段階あるうちの成年後見人)に焦点を当ててお話させていただきます。
民法7条には、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」
民法843条第1項には、「家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。」と書かれており、成年後見人が民法という法律に基づいて選ばれた、判断能力の衰えた本人に代わって法律上の行為ができる法定代理人であることの根拠法規になります。
具体的には、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、本人又は親族が医者の診断書や戸籍謄本等必要書類を揃えて申し立てます、その際に申立人側で後見人候補者を立てることはできるのですが、最終的には裁判所が職権で後見人を誰にするかを決めることになっています。
揃える書類は、そこまで煩雑ではなく、頑張れば親族だけで揃えられる書類(医者の診断書は除く)ばかりです。
ところが、成年後見人制度が始まって、翌年で25年目を迎えるにもかかわらず、実際に成年後見制度を利用している人数は約25万人で、潜在的に成年後見制度の利用が期待される判断の力が不十分とされている人の総数が1千万人いることと比較すれば、わずか2%を満たしているに過ぎません(2022年の統計)。
では、なぜ、成年後見制度の普及が進まないのでしょうか。
成年後見制度の施行当時(2000年)は、実際に成年後見人に本人の親族がなる割合が9割を占めていました。しかし、2022年には親族後見人が選任される割合は19%にまで大幅に減少しています。
その背景には、昔のような家族や親戚が皆近くに一緒に暮らしていて困ったことがあれば親族一同助け合っていた頃の日本とは異なり、①単身世帯や近親者が遠方ですぐに頼れる親族がいない高齢者等の増加により、本人の後見人となるべき親族が見当たらないからケースが増えている。②親族後見人が就いたことで、本人の財産をあたかも自分の財産のように自由に使う不正事例が多発した
ことから、家庭裁判所が親族を後見人に選ぶことに消極的になったことが主な原因と言われています。
ただ、第三者を後見人として選ばれた場合、我々司法書士、弁護士、社会福祉士が選ばれることになりますが、専門職が後見人に選ばれる場合、慈善事業ではないため、毎月一定額の報酬が発生することになり(実務は、本人の誕生日月に1年分の業務報告書を家庭裁判所に提出することで、1年分の後見人報酬付与の審判を得て本人の財産から頂くことになります)
これは、本人が能力を回復するか、亡くなるまでこの報酬負担が消えることはありません。一方、親族後見人の場合は、これまでの親等への介護保護の一環として行っていることが通常であるため、経費等の実費精算のみで、定期的な報酬はもらわないというのが一般的です。
結局、専門職後見人への報酬負担という点が、成年後見制度がいまいち世間に浸透しない主な原因となっています。
また、本人が、後見人が就くまでこれまで自由にしてきたお金を使い方、例えば、親族へのお年玉等を与える行為、慶弔関係のお布施、寄付等、10万円を超える出費については、後見人がつくと原則できなくなります。後見人の主な仕事は本人の財産を守ることであるため、本人の財産を減らす行為については、厳しくチェックされることになります。
こうして、後見人が就くと本人の財産は雁字搦めになり、自由に出金できないということも成年後見制度を躊躇われる理由となっています。無駄使いと思えるような訪問販売やリフォームの契約等を制限するのはともかくとして、出金行為全てを厳しくチェックすることは行き過ぎな気がします。
そこで、成年後見制度自体も普及促進のためにこれまでいくつか改正を経てきました。それが2016年4月に成立した「成年後見制度利用促進法」とそれに合わせて2018年5月に作成された「成年後見制度利用促進基本計画」です。
この計画には3つのポイントが掲げられています。①利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善②権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり③不正防止の徹底と利用しやすさとの調和の3つが掲げられています。
①では、成年後見人は、単に財産管理のみならず、本人の意思決定支援・身上保護も重視し、本人が判断能力が衰える前の行動を親族等から聞き取り、本人の出費行為全てに一律制限をかけるのではなく、本人の意思これまでの生活スタイルを尊重しながら、個別具体的に判断していくようにする。
②本人が都心部ではなく地方にお住まいであっても、成年後見制度を利用できるように、市区町村直営又は委託の中核機関を設置し、実際に問題を抱えている本人からきちんと相談が受けられるよう、医療、福祉、司法、金融、地域の関係機関が連携できる体制をつくること。
③不正防止のために親族後見人には、別の専門職の後見監督人を付けることで対処する。また本人が一定額以上の金融資産を保有している場合は、後見制度支援信託や支援預金を利用することで、親族後見人が管理する財産額に絞りをかける等の動きが出ています。
特に、2019年3月の最高裁判所の判例で、「認知症などで判断能力が十分ではないの生活を支える成年後見制度をめぐり、後見人には身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示したことで、再度、成年後見人には、親族が後見人候補者として申し立てられた案件については、その申立通りに親族を選任する流れとなるように見直されています。
ただ、前提として、親族の不正が起きないように、状況を整えることは大切です。
そこで、2022年4月から始まった、親族後見人に対して専門職が期間限定(10か月)で成年後見監督人として就任し、親族後見人がきちんと本人の財産管理等を行えるように指導していく、そしてその目的が達成できたと家庭裁判所が判断すれば、専門職の後見監督人は辞任し、今後は親族後見人だけで本人の財産管理、身上保護をしていくという総合支援型成年後見監督人制度が始まりました。
今まで、専門職が後見人や監督人に就くことで、本人が亡くなるまで専門職への報酬という金銭的負担が付きまといましたが、期間限定にすることで、利用の促進が期待されます。
後見制度の利用のご相談や申立て書類の作成、専門職後見人としての候補者としてもなることができますで、是非我々専門家である司法書士法人C-firstに一度ご相談ください。