会社代表者の住所が非公開にできる新制度が創設!
商業登記において、何を登記すべきかについては、法律(会社法)が定めています。株式会社については、本店所在地のみならず、代表取締役、代表執行役、代表清算人(以下代表取締役等)について氏名及び「住所」を登記するように定められています。
では、そもそもなぜ代表取締役等の「住所」は登記すべき事項なのでしょうか。一般的に言われている理由は、代表取締役等の住所は代表取締役等を特定する大切な情報であり、訴訟上においても裁判籍の決定や訴状の送達等で重要な役割を負うというものです。
しかし近年では、プライバシー保護の観点から見直しを行うべきという議論があったり、これから会社設立を考えるスタートアップ関係者からも住所登記についての配慮を求める声が多く上がったりしているという状況でした。
そこで、それらの実務における問題の状況を勘案しつつ検討されてきたのが、10月1日から施行される「代表取締役等住所非表示措置」の制度です。法務省のホームページに掲載されている制度の概要をみると、次のように記載されています。
代表取締役等住所非表示措置とは
「代表取締役等住所非表示措置は、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(※)(以下「登記事項証明書等」といいます。)に表示しないこととする措置です。」
対象会社は株式会社のみ
要は代表取締役等の住所を非表示にするという制度だという事が書いてあるのですが、ここには「株式会社」と記載されており「株式会社等」とは書かれていません。つまり株式会社以外の法人である合同会社やNPO法人等など他の法人形態は今回の制度の対象外になっています。さらに、「住所の一部」を表示しないと書かれている通り、住所すべてが非表示になるわけではなく、最小行政区画までは表示されます。指定都市においては区までが記載されます。※例えば、指定都市の大阪市、堺市、京都市、神戸市などでは区までは表示されます。
申出に必要な添付書類
続いて非表示の手続きについて述べていきます。全ての株式会社の代表取締役等の住所が自動的に非表示にはなりません。非表示にするためには申請書、添付書類をそろえて申出をする必要があります。詳しくは、法務省のホームページをみていただけたらと思いますが、非上場会社においては、主に以下の添付書類が必要になります。
①株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
②代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例:住民票の写しなど)
③株式会社の実質的支配者リストの本人特定事項を証する書面(例:資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面など)
いつでも申出が出来るわけではない
次に大切なのが申出のタイミングです。いつでも、申出ができるわけではありません。非表示措置の申出は、「設立の登記」や「代表取締役等の就任の登記」、「代表取締役等の住所移転による変更の登記」など、代表取締役の住所が登記されることとなる登記申請と同時にする場合に限り申出をすることができます。この点、登記申請がなくてもいつでも申出ができる旧氏併記の申出とは違いますので注意が必要です。
非表示措置の対象になる住所とは
また、非表示になる住所は申出と併せて申請される登記によって記録される住所に限られます。ですので、過去に退任した代表取締役等の住所の記載は残されたままとなりますし、例えば、代表取締役が代表清算人に就任するタイミングで代表清算人の住所を非表示にしようと思っても、代表取締役の住所は非表示にはなりません。
登記義務は免除されない
さらに、非表示措置が講じられているとしても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、今まで通り、代表取締役等の住所に変更が生じた場合は、その旨の登記申請が必要です。
非表示措置を講じる事で支障がでることも?
その他にも非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが予想されます。この点、法務省からも非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討をしてくださいとの注意がでています。
最後に
尚、非表示措置を講じた場合であっても、住所が記載された書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有する者については、登記簿の付属書類の利害関係を有する部分として閲覧することにより代表取締役等の住所の確認が可能であり、代表取締役等の住所の役割とプライバシーの保護のバランスを図っています。
以上、概要や申出の手続き、注意点などをざっくりと述べてきました。新しい制度の為、今後どれくらいの申出があるのか、非表示措置がとられた場合には実務的にどのような影響があるのか等については、制度の運用がすすむにつれて徐々に判明してくると思われます。申出ができるタイミングも限られていますので、ご興味がある場合はC-firstにご相談ください。